9月15日

大会3日目。明け方まで降っていた雨は朝にはあがった。しかし路面コンディションは決してよくない。そのような状況で我らがYJ-R03は朝一番に走行することになった。ドライバー二人はそれぞれプラクティスを行い、競技場へ向かった。

走行順は三番目。しかし、目の前で一台がリタイアし、すぐにコースへ入ることとなる。高ぶっていた緊張がピークに達する中、車両はゆっくりと走り出した。第一コーナーからストレート、スラロームへ。瞬間、車両の挙動が乱れ、スピン。誰もが息を呑む。数瞬の後、車両は再びコースへ戻った。その後、快調にタイムを刻むも、再びスピン。三度スピンしてようやくドライバーチェンジを迎えたのは13分を経過していた。
3分のドライバーチェンジを終え、コースに戻ったのは今年のリーダーにしてエースドライバー。一年間チームを引っ張ってきたリーダーの走りを目に焼き付けようとメンバーにも力が入る。順調に周回を重ねる車両に異変が起こったのは16周目のことだった。大きな左コーナーのあとのヘアピン。そこを通過した車両からエンジン音が消えた。
懸念されていたことだった。左側から燃料を吸い上げるタイプの燃料タンクは左コーナーで燃料が吸えなくなる症状が以前から現れていた。大会二週間前に改善したものの不安は残っていた。それが現れたのである。走行中の車両。祈るしかできないメンバーの前で、再び同じ場所に差し掛かった時、ドライバーが一瞬ステアリングを右に切った。
己の技術で難所をクリアしたドライバーはその後も車両をなだめながら走り続けた。そして24週目。ゆっくりとゴールに入った車両に観戦していたメンバーから歓声と拍手が上がった。三年連続の完走だった。

ピットへ戻ったメンバー。一人が汚れたカウルを拭い始めた。一人、また一人とその輪に加わる。静かなピットの空気が乱れたのは少ししてからだった。大会随一と賞賛の嵐に包まれたカウルに全精力を傾けてきた男の嗚咽。チームでも一、二を争う熱い気持ちをもって活動に取り組んできた男の目にたまる涙。いつも冷静にチームを率いてきたサブリーダーの頬を伝わる涙。ありあまる知識と経験、そして誰にも負けない情熱をもってメンバーを引っ張ってきたリーダーの号泣。抱き合い、手を固く握りながら、互いの健闘をたたえあうメンバーたちの、滂沱と流れる涙は止まることはなかった。活動に情熱と精力を注ぎ込み続けた男たちの、一年間の終わりだった。

汚れを綺麗に拭われた車両はピットの中で展示され、車両紹介のパネルはピットを訪れた人へ向けて示された。メンバーたちは来年へ向けて他大学の車両の見学に向かい、一方で見学に来た学生の応対に追われた。また、一年間様々な支援をしてくださったスポンサー様、常変わらぬ応援を頂いた大学の先生方も大勢来ていただき、ピットは活気に溢れた。

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